進化論とシャミセンガイ
シャミセンガイのスケッチ “On the Systematic Position of the Brachiopoda.”(1873, by Edward S. Morse)より転載 大田区立郷土博物館所蔵 |
解説
1859 年(安政 6 年)、チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin )の「種の起源」が発表され、E.S.モース博士は、進化論との関わりの中で腕足類の研究を進め、ダーウィンの進化論を支持するようになります。そして、この腕足類が日本近海には豊富に生息していることを知り、その研究と資料採集を目的に、 1877 年(明治 10 年) 6 月 17 日に来日しました。
モース博士は、来日後思いがけず、開校して間もない東京大学の教授を引き受けることとなり、 1877 年(明治 10 年) 9 月 24 日、進化論についての講義をしました。これは、日本国内ではほとんど知られていなかったダーウィンの進化論について、初めての本格的な紹介でした。その後も大学のみならず、公開講演の中で進化論について話しました。この進化論に対して、キリスト教の宣教師などからの反発や反論がありましたが、当時の日本の人びとの間ではおおむね受容されました。
腕足類とは、約 6 億年前の古生代に出現した小さな海産動物です。ハマグリなどのように 2 枚の貝殻(ハマグリの貝殻よりも薄い)を持ち、その端から柄(肉茎)が出ている形をしています。貝殻を持っていますが、軟体動物である貝類ではなく、触手動物です。体の左右に貝殻を持つ貝類とは異なり、腕足類は体の前後(背腹)に貝殻があり、その仲間にはホウズキガイやシャミセンガイなどがいます。
写真は、“On the Systematic Position of the Brachiopoda”(1873, by Edward S. Morse)の表紙や中扉に掲載されているシャミセンガイのスケッチです。
[参考文献]
1)「モースその日その日:ある御雇教師と近代日本」 磯野直秀 1987 年 有隣堂
2)「黎明期の日本に対するエドワード・S・モースの寄与」 磯野直秀
(「ザ・ヤトイ-お雇外国人の総合的研究-」所収) 1987 年 思文閣出版
詳細
E.S.モース博士の日本国内における「進化論」に関する主な講義
年月日 | 講義・講演会 | 備考 |
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1877年(明治10年)
9月24日 |
東京大学で初めて進化論の講義をする。 | |
10月 6日
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一般を対象として、連続 3 回の第 1 回講演を行う。於東京大学法理文三学部講堂 | |
10月15日
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同 上(連続 3 回の第 2 回講演) | 大森貝塚の話にも触れる。 |
10月20日
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同 上(連続 3 回の第 3 回講演) | |
1878年(明治11年) |
江木学校講談会で、連続 4 回の第 1 回講演を行う。 於浅草井生村楼 | 新聞広告にも掲載され、講演名は、「人種原始論」あるいは「動物変遷論」と呼ばれていました。 |
10月28日
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同 上(連続 4 回の第 2 回講演) | |
10月31日
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同 上(連続 4 回の第 3 回講演) | |
11月 2日
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同 上(連続 4 回の第 4 回講演) | |
1879年(明治12年)
1月25日 |
「動物変進論」と題し、連続 3 回の第 1 回講演を行う。 於文部省内修文館 | |
2月 1日
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同 上(連続 3 回の第 2 回講演) | |
2月 8日
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同 上(連続 3 回の第 3 回講演) | |
3月 5日
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「動物変遷論」と題し、4月30日までの間に連続 9 回の講演を行う。 於:東京大学講堂 |
この講義内容は、 1883 年(明治 16 年)、モース博士の弟子である石川千代松氏(モース博士の講義を受講した時は、東京大学 1 年生)の翻訳によって、「動物進化論」として出版されました。進化論の紹介書としては、日本最初の本です。 |
7月 5日
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江木学校で「人と猿」と題し、講演を行う。 於浅草井生村楼 | |
7月11日
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慶應義塾で「変進論」と題し、講演を行う。 於浅草井生村楼 | |
1882年(明治15年)
6月30日 |
東京生物学会主催の公開講演会で講演する。於木挽町明治会堂 | |
1883年(明治16年)
1月11日 |
東京専門学校(現早稲田大学)の授業開始式で「人類の起源」と題し、講演する。 | |
1月12日
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東京大学で「鳥類の爬虫類的性質」と題し、講演する。 | |
この「進化論」に関する主な講演一覧表は、「黎明期の日本に対するエドワード・S・モースの寄与」[磯野直秀(「ザ・ヤトイ-お雇い外国人の総合的研究-」所収 1987 年 思文閣出版)]の「Ⅴ 進化論の導入」( 283 頁~ 284 頁)の記述から抜粋し、一覧表にしたものです。